クラウドAPIとローカルPC、どちらが安いか|回収期間を計算する
業務でAIを使う量が増えると、必ず「APIの従量課金を払い続けるか、PCを買ってローカルで動かすか」という判断を迫られます。答えは使用量で決まります。ここでは、その分岐点を自分の数字で計算できるようにしました。
先に結論の目安
クラウドのAPIは、使った分だけ払う代わりに上限がありません。ローカルPCは初期費用がかかる代わりに、あとは電気代だけです。分岐点はおおまかに次のあたりに来ます。
| 月間の使用量 | 向いている形 | 理由 |
|---|---|---|
| 数百万トークン以下 | クラウドAPI | 月数千円で収まる。PCへの投資は回収できない |
| 数千万トークン | どちらもあり | 用途と、データを外に出せるかで決める |
| 億トークン規模、または常時稼働 | ローカル併設 | 1〜2年で回収できることが多い |
| 外に出せないデータがある | ローカル一択 | コストではなく契約・規程の問題 |
ただしこれは目安です。実際の単価はモデルとサービスで10倍以上の幅があり、為替でも動きます。下の計算機に自社の数字を入れてください。
回収期間の計算機
入力した数値はブラウザ内で計算するだけで、どこにも送信しません。単価は契約中のサービスの料金表から転記してください。
いまの使い方
ローカルに置く場合
計算に入れ忘れやすいもの
- 人件費: ローカル運用は構築と保守の手間がかかります。月に数時間の作業が発生するなら、その分を上乗せして比較しましょう。逆にクラウドAPIは、使い始めるまでが速い
- モデルの品質差: ローカルで動く27〜32Bクラスと、クラウドの上位モデルは同じ仕事ができるとは限りません。「同じ仕事ができる範囲」でのみコスト比較が成り立ちます
- 電気代以外のランニング: 常時稼働ならUPS、故障時の代替機、バックアップ。年間で数万円を見ておくと安全です
- PCの残存価値: 3年後に売却できる、あるいは他の用途に転用できるなら、実質の負担はその分軽くなります
- クラウド側の値下げ: APIの単価は下がる方向に動いてきました。長期の回収計算は保守的に見るのが安全です
コストで比べる前に確認すること
金額の前に、そもそもデータを外に出せるかを確認してください。契約や社内規程で外部送信が禁じられているなら、コスト比較の前にローカルが確定します。逆に出せるなら、まずクラウドAPIで小さく始めて、実際の使用量を1〜2か月測ってから判断するほうが確実です。見積もりの段階で使用量を当てられる人はほとんどいません。
ローカルに置く場合の構成の目安
用途によって必要な機材が変わります。当サイトのデータでは、業務でのローカルLLM運用はおおむね次の3段階です。
| 使い方 | 構成の目安 | 価格の目安 |
|---|---|---|
| 個人が試す・小さく始める | VRAM 12〜16GBのGPU搭載機、またはMac 32GB | 20〜38万円 |
| 部署で共有・常時稼働 | Mac mini M4 Pro 64GBやRyzen AI Max+ 395 128GB | 32〜48万円 |
| 全社・大型モデル・学習も | RTX 5090搭載ワークステーションやMac Studio M5 Ultra | 75〜185万円 |
予算から選ぶなら予算別のページ、動かしたいモデルが決まっているならモデル別のページで必要メモリを先に確認してください。
実際の数字で計算してみる
目安の表よりも、自社に近い形の数字を一度たどるほうが早く腹に落ちます。単価は入力が100万トークンあたり450円、出力が100万トークンあたり2,250円(2026年9月時点の中位クラスの目安)で計算しました。
例1: 議事録の要約を毎日回す部署
90分の会議の文字起こしは、日本語でおおよそ4万字。日本語は1文字あたり0.7〜1トークンほどなので、入力は約3.5万トークン。要約の出力を3,000トークンとします。1日4本、月20営業日で80本。
入力は 3.5万 × 80 = 280万トークン、出力は 3,000 × 80 = 24万トークン。金額にすると 280万 ÷ 100万 × 450 = 1,260円、24万 ÷ 100万 × 2,250 = 540円。合わせて月1,800円です。年間で2万円強。ここで36万円のMac miniを買っても、回収まで約17年かかります。この使い方なら、クラウドのまま動かすのが正解です。
例2: 社内文書の検索・要約を常時動かす
社内規程やマニュアルを検索して答えるRAGを、全社の問い合わせ窓口として動かす場合。1件あたり、検索で引いた文書を含めて入力2万トークン、出力800トークン。1日300件、月9,000件とします。
入力は 2万 × 9,000 = 1億8,000万トークン。180 × 450 = 81,000円。出力は 800 × 9,000 = 720万トークンで、7.2 × 2,250 = 16,200円。月およそ97,000円。年間116万円です。
これをローカルに置くとどうなるか。Ryzen AI Max+ 395の128GB機を48万円、稼働時の平均消費電力を150Wとすると、電気代は 150W ÷ 1,000 × 24時間 × 30.4日 × 31円 = 月約3,400円。差額は月93,600円で、48万 ÷ 9.36万 = 約5.1か月で回収します。ここまで来ると、判断は「回収できるか」ではなく「ローカルのモデルで同じ品質が出るか」に移ります。
2つの例の差は、使用量にして約62倍です。同じ「業務でAIを使う」という言葉でも、コストの構造はまったく別物になります。だから目安の表ではなく、自社の件数で計算する必要があります。
トークン数の見積もり方
計算機に入れる数字のうち、いちばん外しやすいのが月間トークン数です。見積もりで当てようとせず、次の順で測るのが確実です。
- 請求画面から逆算する: すでにAPIを使っているなら、先月の請求額と単価から実際のトークン数が出ます。これが最も正確です
- 1件あたりを実測して件数を掛ける: 代表的な処理を5件流し、平均トークン数を取る。あとは月間の件数を掛けるだけです
- 日本語1文字 ≒ 0.7〜1トークンで概算する: 文書量しか分からない段階の粗い見積もりに使います。英語混じりのコードやログはこれより少なめに出ます
- 増える方向に振っておく: 使い始めると用途が増えます。実測値の1.5〜2倍を計画値にしておくと、あとで慌てずに済みます
よくある3つの誤解
「ローカルなら無料」。電気代と人手がかかります。150Wの機材を24時間動かせば年に4万円ほど、構築と保守に月2時間使えば人件費も乗ります。無料になるのは限界費用であって、総額ではありません。
「APIは高い」。少量なら圧倒的に安く済みます。例1のように月1,800円で回っている使い方に、数十万円の機材を投じる理由はありません。高いと感じるのは、たいてい使用量が想定を超えて伸びたときです。
「ローカルでも同じモデルが動く」。動きません。手元で現実的に動かせるのは27〜32Bクラス、大容量メモリの機材で70B〜120BのMoE型までです。クラウドの上位モデルとは別物と考えたほうが安全です。モデル別のページで、動かしたいモデルの必要メモリを先に確認しましょう。コスト比較が成り立つのは、同じ仕事ができる範囲に限られます。
稟議に載せるときに聞かれること
金額の妥当性より、運用の継続性を問われることが多くなります。先に用意しておくと通りが早い項目です。
| 聞かれること | 用意しておくもの |
|---|---|
| 本当にその使用量になるのか | 1〜2か月のPoCで測った実績値。見積もりではなく実測 |
| 止まったらどうするのか | クラウドAPIへの切り戻し手順。両方を使える形にしておく |
| 誰が保守するのか | 月次の作業内容と想定時間。属人化しない手順書 |
| 何年使う前提か | 3〜4年。資産計上と減価償却の扱いは経理・顧問税理士に確認 |
| セキュリティはどうなるのか | 社外に出せないデータをAIで扱うの構成図と運用ルール |
編集部メモ: 回収期間を計算してもらうと、多くの場合「思ったより使っていない」という結果が出ます。感覚では毎日たくさん使っているつもりでも、トークン数に直すと月数千円ということが珍しくありません。そこで計画が止まるなら、それは正しく止まったということです。逆に、計算して数か月で回収できると出た会社は、たいてい外に出せないデータの問題も同時に抱えています。コストは決め手ではなく、判断を後押しする材料として使うのが実態に合っています。
そもそも比較の土俵に乗っているか
コストの数字を並べる前に、両者が同じ仕事をこなせるかを確かめておく必要があります。ここを飛ばした比較は、たいてい導入後にひっくり返ります。確かめ方は単純で、実際の業務データで同じ質問を投げるだけです。
- 過去に処理した案件を20件選ぶ: 典型的なものと、難しかったものを混ぜる
- 同じ入力を両方に投げる: クラウドの上位モデルと、ローカルで動かす候補のモデル
- 使う人に見せて選ばせる: どちらの出力か伏せたまま、業務で使えるかどうかだけを判定してもらう
- 差が出た案件を見る: 何割で差が出たか、どういう種類の案件で品質が落ちたか
ここで8割以上が「どちらでも使える」と判定されるなら、コスト比較に意味があります。半分を切るなら、金額の話をする段階ではありません。ローカルで動かす候補はモデル別のページから選べます。
途中で判断を変えるための測り方
一度決めた形を持ち続ける必要はありません。使用量は用途が増えるたびに変わるので、四半期ごとに見直す前提で数字を残しておくと、切り替えの判断がしやすくなります。残しておく数字は3つだけで足ります。
| 記録するもの | 取り方 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 月間トークン数 | APIの請求額 ÷ 単価、またはログの合計 | 回収期間の再計算。使用量が伸びるペース |
| 処理の内訳 | 用途ごとに件数を数える | どの処理をローカルへ寄せると効果が大きいか |
| 待ち時間の許容 | 使う人に「何秒までなら待てるか」を聞く | ローカルで足りるかの線引き |
3つ目を測っている会社は多くありません。ところが、ローカル化がうまくいくかどうかは、ここでほぼ決まります。1秒に20トークン出れば対話に使えますが、2トークンでは同じ人が二度と使いません。手持ちのPCで判定すると、候補の機材でどれくらいの速度が出るかを先に見積もれます。
ローカルに寄せやすい処理・寄せにくい処理
全部を移す必要はありません。使用量が多くて仕事の範囲が狭い処理から順に寄せると、投資の効果が大きくなります。
| 処理 | ローカル化 | 理由 |
|---|---|---|
| 定型文書の分類・タグ付け | 向く | 件数が多く、求められる判断が狭い。小さいモデルで足りる |
| 社内文書の検索と要約 | 向く | 機密を含みやすく、件数も多い。範囲が決まっている |
| 議事録の要約 | 向く | 入力が長くトークン数が伸びる。品質の要求はほどほど |
| 複雑な推論・企画の壁打ち | 向かない | クラウドの上位モデルとの差が出やすい。件数も少ない |
| 長いコードの生成 | 向かない | 品質差が結果に直結する。使う人が待てない |
上3行をローカルへ、下2行をクラウドに残す。この形に落ち着く会社が多く、コストの伸びを抑えつつ品質も落とさずに済みます。
よくある質問
クラウドAPIとローカル、両方を使う形はありですか
むしろそれが現実的な構成です。外に出せる仕事はクラウドの上位モデルに投げ、機密を含む処理だけローカルに回す。使用量の多い定型処理をローカルに寄せると、コストの伸びも抑えられます。切り替えできる形にしておくと、障害時の逃げ道にもなります。
何人で使うと元が取れますか
人数ではなく処理量で決まります。10人で軽く使うより、1人が自動処理を大量に回すほうがトークン数は多くなります。上の計算機に、人数ではなく月間の件数を入れて確かめるのが確実です。
電気代は実際どれくらいですか
アイドル中心の常時稼働なら、Mac miniクラスで年1,100〜1,900円、GPUを積んだワークステーションを終日動かすと年3〜6万円が目安です(31円/kWhで計算)。推論中だけ電力が上がる使い方なら、この範囲の下寄りに収まります。
買ったPCが陳腐化しませんか
ローカルLLM用途では、容量の大きい機材ほど陳腐化が遅くなります。速度は世代で伸びますが、動かせるモデルの上限を決めるのはメモリ容量で、こちらは買った時点から変わりません。3年後も、どのモデルまでメモリに収まるかの線引きは変わりません。